文芸賞 受賞作品

文芸奨励賞

部門: 詩

表題: 終着駅まで

受賞者: 四万十市 やまさき・たどる

校門を入った右手の奉安殿に対(むか)ってい
る背中に、 配属将校の刺すような視線
が貼りついていた。 はじけるほどの青
春の日々は、 引き据えられたままで、
級友三人の予科練入隊を見送った。

日向灘を望む兵舎前で、 八月十五日の
放送を聞いた。 炎天下での直立不動に
耐えながら、 恋人からの〈武運長久〉
のお守りを握りしめていた掌の感触の
向うに、 名状し難い思いが坐っていた。
空も海もいつもの青であった。

軍国教育から民主教育への、 戸惑いの
歩みから三十八年。 そのすべてが過去
形になってしまった日の夕暮れ、 玄関
の戸を閉めた乾いた音に胸が詰まった。

母と父の死に、 背中を押されていても、
孫たちの成長に眼を細める。 その一方
で、 年金世代に仲間入りした事実のま
わりで、 言いようのない淋しさを視て
いる自分に躓いたりした。

あなたが居て、わたしが在(あ)る。五十三
年間の、妻とのその事実が崩れた。唇
を噛みしめて見上げた星の輝きが心に
沁みた。 そこにある死の悲しみの深さ
は測れない。

終着駅までに、 駅をいくつ過ぎていく
か。 地図のない旅人にはわからない。
陽がのぼり陽が沈む沿線の風景に、 セ
ピアいろの思い出まで重ね合わせ、
九十年のいのちをいとおしみつづける。