文芸賞 受賞作品

佳作

部門: 詩

表題: 荒んだ犬

受賞者: 室戸市 松 原  一 成

俺は一気に山の中腹を目指し 駆け上がり
ある一つの墓の前に来て
血塗れの体を横たえる
疲れ切っていた ここは俺の塒なのだ
雲間から月が姿を現し 俺の荒んだ顔に
青白い光りを投げかけている

俺は母親を知らない
物心つく頃には船乗り上がりの
意気のいい彼の手で育てられていた
彼は妻子を亡くした所為もあってか
我が子のように慈しんでくれた
幼い俺は彼が好きだった 傍を離れず
いつも彼の後を追った

突然 彼が交通事故で死んだ
俺は途方に暮れ 彼が恋しくて
火葬場から墓場まで 人込みに紛れ付いていく
それからは当てもなく 野良犬の世界へ

苛めや喧嘩 修羅場の中で泣きながら生きた
強くなった 擰猛さや残虐さも身につけ
いつしか仲間から恐れられる様になった

今夜も仲間を引き連れ
猪を相手に 畑で死闘を繰り広げた
奴を殺して獲物にする為に

目を閉じると 彼の声が聞こえる
俺の名を呼んでいるのだ ジミー ジミー
俺は尻尾を振って駆け 彼の懐に飛び込む
頬ずりが温かい 幼い日々が・・・・・・
だが 狂暴さに魂も荒れ 傷だらけの
変わり果てた俺の姿に
彼は泣いているだろう

俺の目に涙が