文芸賞 受賞作品

文芸奨励賞

部門: 詩

表題: 大腿骨

受賞者: 高知市 磯江 眞 知 子

体格が良いので少し時間がかかります
火葬場の職員が私たちに告げに来た

禅宗の僧侶出身の舅は
かわいい子は荒菰で巻けと
ライオン教育で我が子を鍛えた
早朝 枕を蹴って子らを起こし
百姓仕事を登校時までさせた

肥桶を担ぎこぼさぬように
一歩一歩足を踏みしめ坂を上がる
少しでも担ぐ回数を少なくしたい
多量の肥を入れる 重くて胴で担った

学業を終えると夫の兄弟たちは
早々と県外へ散って行った
優秀な兄に比べ全てに劣る夫は
親に認めてもらいたくて家に残った
家業の合間に百姓仕事も続けていた

夫の手はグローブのように太く
胴長短足で車夫のような脚だった

舅亡き後 姑や私と四人の子どもを乗せ
驀進する機関車のようにパワーに溢れ
私の知る夫は自信に満ちていた
如何にして自信を持つようになったか
柔道を始めて勝つ喜びを知ったという
得意技は背負い投げ むべなるかな

骨揚げ室に入るなり
シンメトリーになった大腿骨が目に入る
「見事なお骨です」職員は何回も言った
普通は八百度ですが千度で焼きました
骨を拾うたび白い粉が霧状に舞い上がり
皆の黒い喪服に降りかかる
特大の大腿骨が夫の人生を語る